lunes, 15 de mayo de 2017

A beautiful review made by Ele-King (Japan)















Ele-King (Japan)


 いまや日本のアンビエント・ミュージック・シーンを牽引する存在といっても過言ではない畠山地平。彼は2006年に米〈クランキー〉からデビューして以降、〈ルーム40〉、〈ホーム・ノーマル〉、〈オウン・レコード〉など国内外のレーベルから素晴らしいアンビエント・ミュージックを多くリリースしてきたアーティストである。
 また、マスタリング・エンジニアとしれも知られる畠山は、レーベル〈ホワイト・パディ・マウンテン〉を主宰し、自身のソロ・ワークやコラボレーション・ワークのみならず、シェリング(新作リリース!)、岡田拓郎+ダエン、ハコブネ、ファミリー・ベーシック、フェデリコ・デュランドなど、数多くのアーティストたちの素晴らしいアルバムを送り出してきた。このラインナップを見るだけでも分かるが、〈ホワイト・パディ・マウンテン〉がリリースする作品は、いわゆるアンビエントだけに留まらず、シューゲイザーからドリーミーなポップまで実に幅広い。しかし、そこには共通するトーンがあるようにも思える。
 マスタリング・エンジニアでもある畠山らしいサウンドのトリートメントかもしれないが、それだけではない。どの作品からも濃厚な「アンビエント/アンビエンス」の空気が醸し出されているのだ。清冽で、濃厚な、空気=時間の深い感覚。それが〈ホワイト・パディ・マウンテン〉の魅力に思える。そして、これは畠山地平のアンビエント作品にも共通する感覚である。
 この春、〈ホワイト・パディ・マウンテン〉から2枚のアンビエント・アルバムがリリースされた。ひとつは、畠山地平+フェデリコ・デュランドによる『ソラ』。もうひとつは伊達伯欣(イルハ)とフェデリコ・デュランドのデュオ・ユニット、メロディアの新作『スモール・カンバセーションズ』である。
 フェデリコ・デュランドはアルゼンチン出身で1976年生まれのアンビエント・アーティスト。〈ホワイト・パディ・マウンテン〉、〈スペック〉、〈12k〉、〈プードゥ〉など錚々たるレーベルからアルバムを発表してきたことでも知られ、この2017年は、すでに〈12k〉からソロ・アルバム『ラ・ニーニャ・ジュンコ(La Niña Junco)』を発表している。『ラ・ニーニャ・ジュンコ』もまた彼らしい優雅な時間と深い記憶の交錯、純朴な音と繊細なサウンド・トリートメントによって、「音楽」が溶け合うようなアンビエント・アルバムに仕上がっていた。聴いていると耳がゆっくりと洗われるような気分にもなってくる。ちなみにローレンス・イングリッシュが主宰する〈ルーム40〉からの新作も控えている。
 そう考えると、フェデリコと畠山地平とのコラボレーションの相性の良さも分かってくるだろう(彼らは新作『ソラ』以前もコラボレーション作品をリリースしている)。畠山のアンビエンスもまた身体の記憶から生まれるような濃厚な時間、繊細さを称えたアンビエントなのである。ゆえに彼らの音は体に「効く」。聴き終わったあとに心身ともに浄化された気分になる。
 本作『ソラ』もまた同様である。1曲め“アナ”の密やかなノイズの蠢きと細やかな音の揺らぎ、音楽と音響の境界線が溶け合うアンビエンス。2曲め“ナツ”の深い響きと繊細な音量の変化によって生まれる透明なドローン。3曲め“ルイザ”の星の光のような音の瞬きの清冽さ。4曲め“キサ”の冬の厳しさのようなノイジーな音。5曲め“イルセ”の春の息吹のようなアンビエント/アンビエンス。
 全5曲、どのトラックも、ふたりのアンビエント・アーティスト特有の「時間・記憶・音意識」が繊細な空間意識と音響感覚で見事に融合している。記憶と時間の結晶? まるで異国の地への郷愁のような、不思議な旅情を称えたアンビエント・アルバムのようにも思えた。
 一方、伊達伯欣とフェデリコ・デュランドのデュオ、メロディアのサード・アルバム『スモール・カンバセーションズ』は、音数を限りなく減らしたミニマムな音世界を展開する。ふたりのギター、ピアノ、僅かな環境音。このミニマムな編成のなか、伊達とフェデリコは、非反復的に、点描のようにポツポツと素朴な響きを落としていく。まるで小さな会話のように。とても少ない音数だからこそ、聴き手との「あいだ」にもイマジネーションゆたかな「会話」=「音楽」が立ち現われてくる。それは慎ましやかな「音楽」だが、同時に、聴き手を深く信頼しているような音楽/アンビエンスである。
 1曲め“ア・ブルー・プレイス”と2曲め“ア・ラスト・メッセージ・オブ・ア・レイニー・デイ”は、ふたりのギターによる点描的で乾いた音の連鎖。3曲め“レヴェリー”では淡いピアノが断続的に鳴り、朝霧のようなドローンが生まれては消えていく。4曲めにして最後の曲“ア・ライラック・ネーム・リィトゥン・オン・ウォーター”は楽器が消え去り、透明なアンビエント/ドローンを展開する。その透明な空気のカーテンのようなドローンに、微かなノイズがレイヤーされ、音楽・記憶・時間の融解するような感覚が生まれているのだ……。
 以上、2作とも作風の違うアンビエント作品だが、濃厚で繊細な時間の生成という意味では共通する。美しく、儚く、優しく、心と体に効く。そんなアンビエント/アンビエンスのタペストリーがここにあるのだ。新しいアンビエント・ミュージックを聴きたい方に、心からおすすめしたいアルバムである。
デンシノオト
Muchas gracias Ele-King for la maravillosa reseña! F.